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荒川弘といえば『鋼の錬金術師』だけれど、実は『百姓貴族』を薦める俺がいる(笑)。
農業と言えば物づくりの苦労と喜び、生産者側と社会の軋轢やドロドロ。酪農と言えば生き物と触れ合える苦労と喜び。「自然は素晴らしい農業は素晴らしい」と説教くさい謳い文句がメインテーマになりがちな第一次産業マンガとは一線を画し、『動物のお医者さん』や『もやしもん』とは全く違う農学系コミックであり。
私達がパックされた、新鮮で安い肉を毎日買える幸せを得られるのは、誰かが私の代わりに豚や牛を育て、誰かが殺し、誰かが解体してくれるから。その、『誰か』を目指す高校生達のお話です。
荒川さんの作品って。うまく言葉に出来ないけれど、ハガレン読んでると「この人のマンガってファンタジーであってファンタジーじゃないな」と思ってしまう。
設定とかキャラクターとか『等価交換』みたいな言葉だけじゃなくて、頭の中だけで組み立てたファンタジーにはない、もっとぶっとくて、どっしり根を張った『何か』が、お話しの真ん中にどーーーーーんとそびえている感触があって。
その『何か』のヒントが、『百姓貴族』にあるような気がするんですね。それは作者が家業に携わる経緯で得た、生命に対する考え方なんだろうなと、漠然と考えているのですが。
『銀の匙』読んで、この考え方は間違ってないんだろうなあ、とボンヤリ思うのです。
『百姓貴族』でも『銀の匙』でも、経済動物(家畜)に対してふたつの気持ちが柱としてあります。
ひとつは「目の前の動物への慈しみ」。もうひとつは「家畜は肉や卵の生産物」。この二つの気持ちが両立し、片方を否定しない姿勢が独特の読後感をもたらしているように思います。
生命を慈しむとは、感情に流されることではない。何より流されたら最後、生産者が破綻する。しかし、『彼ら』は生命そのものであって、その生命ひとつひとつへ注がれる生産者の愛情は本物なのだ。何より我々は誰一人、『彼ら』の存在なくして生きて行く事は出来ない。
一見、矛盾しているけど実はどちらも必要な『本質』を、ドライになりすぎず、ウェットに偏らず、絶妙なバランスで描き出してる様は、作者が酪業・農業経験者である以上に、作家としてのセンスが卓越してるというのもあるでしょう。
さらりと描かれてるけど、実はずっしりどっしり重いテーマだったり、コミカルでテンポの良い日常の描写だけど、実は動物の世話は理屈抜きで大変なんだぜーだったり。
この軽やかさもまた魅力なんだよなあ。もちろん、主人公・八軒くんの目線で描かれる農業高校の生活も、未知なる世界を覗いているような楽しみを味あわせてくれます。
『銀の匙』を読んでる時、牛肉からセシウムが検出されたニュースが流れ、インタビューで泣いていた酪農家のおじさんが重なってしまいます。その涙が重すぎて、私にはかける言葉も持ちえません。
また鉄腕DASHで、浪江町から避難してきた酪農家のおじさんが「数日ぶりに牛舎に戻って撫でてやったら、震えていた。いつも傍にいる人間が突然消えて、異変を理解しているのだろう」と話してたのを思い出します。
普段農業系マンガを読んでも、ついぞ結びつくことのない現実の風景が、ふとリンクしてしまうのも、『銀の匙』が持つ現実感(『あっち』と『こっち』は繋がっている)なんだろうなあ。
と言っても、こういったリアルタイム社会問題を取り上げてほしいとは思いません。『銀の匙』には、『銀の匙』でしか描けないテーマがあると思うのです、はい。
という訳で、二巻以降も大いに期待ですよー。
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